
はじめに
欧州市場に進出するにあたり、最も重要なのは、初期段階での正確な情報収集とマーケティングデータの活用です。
日本国内での成功体験がそのまま通用しないのが欧州ビジネスの特徴であり、多様な国、言語、規制、文化を理解した上で戦略を立てなければなりません。
本記事では、欧州市場参入の際に気をつけるべきポイントを、各国事情から具体的な事業計画・運用面まで整理します。
欧州市場と一言で言っても各国異なる
「欧州市場」という言葉は便利な総称ですが、実際にはフランス、ドイツ、イタリア、北欧、東欧など、各国の経済状況、平均給与、GDP、購買力、文化、宗教まで異なります。
例えば、北欧諸国は社会福祉が充実し高所得ですが、税負担も大きく、価格感度が高い市場です。
一方、東欧は労働力が安価で製造拠点として注目されますが、消費市場としての成熟度には差があります。
フランスでは月収の中央値が2,000〜2,500ユーロ、ドイツではやや高めの2,500〜3,000ユーロ。一方、ポーランドなど東欧諸国では1,000〜1,500ユーロ程度と開きがあります。
これらの数値を把握せずに同一価格帯で商品展開を行えば、失敗は避けられません。
各国の言語から消費者法に対応する
欧州市場の大きな特徴の一つは、多言語国家の存在です。
特にスイスはフランス語、ドイツ語、イタリア語が公用語であり、地域によって言語文化が全く異なります。ベルギーもフランデレン(オランダ語)、ワロン(フランス語)、ドイツ語地域と三言語の国です。
また、言語だけでなく、消費者保護法やラベル表示義務などの法規制も各国で異なるため、現地に応じたパッケージやマーケティング戦略のローカライズが求められます。
日本のように一律で進めることはできません。
事業計画、正しい市場、マーケティングデータ
欧州市場進出に際し、多くの企業が日本の行政機関や支援団体に相談します。
しかし、ここで注意すべきは、提供される情報を鵜呑みにしないことです。
多くの場合、アドバイザーは大手商社やメーカーの定年退職者であり、過去の経験に基づいたアドバイスが中心です。
欧州市場の情報が古く、その知識でアドバイスし、事業戦略が的外れ
欧州の現状をリアルタイムで把握していない場合、1980〜1990年代の知識に基づいた戦略をすすめられ、的外れな結果となることがあります。
例えば、店舗販売中心の戦略や、高価でも日本商品なら売れる時代、旧来の価格交渉モデルでは、現在のD2CモデルやSNS活用型マーケティングには対応できません。
貿易知識、関税についての誤解
日本と欧州は2019年のEPA(経済連携協定)により、関税が基本的に無料となっています。これを知らずに輸出入価格を設定すると、大きな損益ミスが生じます。
ただし、現地の付加価値税(TVA)は別問題です。
フランスでは20%、ドイツでは19%と高率ですが、ビジネス間取引であれば還付対象となります。先払いが必要でも、仕組みを理解していれば実質的な負担は発生しません。
欧州ビジネスルールを理解していない
EU機能条約第101条では、再販売価格維持行為(上代設定)が禁止されています。つまり、事業者が『この商品は○○ユーロで販売してください』と指定することは違法です。
日本の展示会などで『50ユーロの定価で、卸値は25ユーロ』といった表現が見られますが、これは欧州市場ではNG。正しくは「オープン価格」として、販売先が自由に価格を設定するモデルが求められます。
欧州規制
商品本体、梱包、外装、それぞれにEU特有の規制があります。
例えば、リサイクルマークの表示、CEマーク取得、原材料の表示義務などを怠れば、卸業社(ディストリビューター)は取り扱いを拒否します。
違反が発覚すれば、販売差し止めや罰金、最悪の場合は関税での一時保留や没収のリスクもあります。
また、商品が注目されるほど、競合他社や消費者からの通報が増え、ビジネスチャンスを逃す例も多数あります。これを回避するには、現地に拠点を持つ専門会社の協力が不可欠です。
デジタル規制、SNS戦略
アドバイザーが最も苦手とするのが、デジタル分野。
SNS戦略や広告運用は今や販路拡大に必須ですが、GDPR(一般データ保護規則)、クッキー承認、国外取引の税制処理など、欧州特有の知識が求められます。
特にTikTokなどで、欧州の視聴者にリーチするには、現地のアカウントやIPからの発信が有利となるため、日本からの配信では限界があります。
戦略的にSNS発信拠点を設け、販売戦略と連動させることが不可欠です。
国際送金フロー、売掛対策
欧州市場ではIBAN番号とSWIFTコードを使って送金するのが一般的です。
しかし、日本の銀行はIBANはあ無く、送金に手間がかかります。結果として、送金ミスや入金遅延などのトラブルが発生することも。
これにより、せっかく契約が成立しても入金が遅れ、信頼関係が崩れる事例もあります。送金方法の確認は、初期契約の重要なポイントです。
まとめ
欧州市場は一枚岩ではなく、国ごとに事情が大きく異なる複雑な市場です。成功するためには、最新の経済・法制度・文化的背景を理解し、適切なマーケティングと戦略を取ることが必要です。日本国内の情報だけで動くのではなく、欧州に拠点を持つ専門会社と連携しながら、現実的で柔軟なアプローチをすることが鍵となります。