
はじめに
現代のデジタル社会において、私たちが日常的に利用しているGoogle、Apple、Amazon、Meta(旧Facebook)などの巨大IT企業が果たす役割はますます大きくなっています。しかし、その一方で「特定企業による市場支配」や「競争の不公平性」といった問題も深刻化しています。
こうした状況を是正するために、欧州連合(EU)が導入したのが「デジタル市場法(DMA: Digital Markets Act)」です。本記事では、DMAの概要、規制対象、具体的な企業対応、そしてDMAが日本企業や消費者に与える影響までを詳しく解説します。
デジタル市場法(DMA)とは?
「デジタル市場法(DMA)」とは、EUが2022年に採択し、2023年から段階的に適用されている規制法です。対象は「ゲートキーパー」と呼ばれる大手デジタルプラットフォーム企業で、彼らの市場支配的行動を制限し、公正な競争を促すことが主な目的です。
DMAの目的
「デジタル市場法(DMA)」とは、EUが2022年に採択し、2023年から段階的に適用されている規制法です。対象は「ゲートキーパー」と呼ばれる大手デジタルプラットフォーム企業で、彼らの市場支配的行動を制限し、公正な競争を促すことが主な目的です。
ゲートキーパーの定義と対象企業
DMAでは、以下の条件を満たす企業を「ゲートキーパー」と定義しています。
EU域内で年間売上75億ユーロ以上、または時価総額750億ユーロ以上
EU内で月間ユーザー数4,500万人以上、年間法人ユーザー1万社以上
同じ中核サービスを3年以上提供している
この条件に該当し、欧州委員会により正式にゲートキーパーに指定された企業には以下があります:
Google(Alphabet):検索、広告、YouTube、Androidなど
Apple:App Store、iOS、Safari
Amazon:Amazon Marketplace
Meta(旧Facebook):Facebook、Instagram、WhatsApp
Microsoft:Windows、LinkedIn、Bing
ByteDance:TikTok(非欧州企業として初指定)
デジタル市場法(DMA)とGDPRの違い
デジタル市場法(DMA)と混同されやすいEUの法規制に「一般データ保護規則(GDPR)」があります。どちらもデジタル社会におけるルールを定める重要な法律ですが、その目的、対象範囲、規制内容には明確な違いがあります。
まず、DMA(デジタル市場法)は、GoogleやApple、Amazonなどの巨大プラットフォーム企業、いわゆる「ゲートキーパー企業」を対象にした競争政策です。主な目的は、これらの企業が市場支配的な立場を利用して不公正な行為を行うのを防ぎ、他の企業や利用者にとって公正なデジタル市場を実現することです。
一方、GDPR(一般データ保護規則)は、すべての企業や組織に対して適用され、個人データの保護とプライバシーの尊重を目的としています。たとえ小規模な事業者であっても、EU域内の個人情報を扱う限り、その対象となります。
要するに、DMAは「市場の競争の公平性」に焦点を当てており、GDPRは「個人の権利とプライバシー」を守るための法律です。DMAは特定の大企業に対して義務や制限を課しますが、GDPRはあらゆる規模の企業に対して、個人データの取り扱いに関する厳格なルールを求めています。
このように、両者は補完的な性質を持っており、EU域内で事業を展開する企業は、両方の規制に対応したデジタル戦略が求められるのです。
DMAが禁止・義務づける主な行為
DMAではゲートキーパーに対して以下のような行動を禁止または義務化しています。
禁止される行為の例
自社サービスの優遇(例:Googleが検索で自社サービスを上位表示)
アプリ内の第三者決済手段の禁止(例:AppleがApp Storeで自社決済のみ許可)
他社のサービスから得たデータの無断利用(例:Amazonが出店者の販売データを使用)
義務づけられる行為の例
外部アプリストアの許可(iOSなど)
異なるメッセージアプリ間の相互運用(例:WhatsAppと他社アプリ)
広告主に対するパフォーマンスデータの提供
罰則規定:違反時の厳しいペナルティ
DMAの特徴的なポイントのひとつが非常に厳しい罰則規定です。
初回違反:世界売上の最大10%の制裁金
再犯時:最大20%
継続的違反:事業の分割命令もあり得る
例えば、GoogleがDMA違反を繰り返した場合、年間売上約3,000億ドルの10%である約3兆円超の罰金が科される可能性もあります。
実際の適用例と企業の対応
Appleの対応
Appleは、App Storeの独占的構造がDMA違反の可能性があるとして、iOSにおける外部ストアの許可や外部決済手段の導入を進めています。
Metaの対応
Metaは、広告データの透明性を確保するために、**FacebookおよびInstagramで「広告なし有料プラン」**をEUで導入。ユーザーに選択肢を提供しています。
Googleの対応
Googleは、検索結果の構成見直しや、Android上でのアプリ削除の自由化など、複数の変更を公表しています。
日本企業・消費者への影響は?
日本企業への影響
DMAはEU域内の法律ですが、EUにサービスを提供している日本企業にも間接的影響があります。例えば:
EU向けアプリを提供する場合、DMA対応のUI設計が必要
ECサイトがAmazonやGoogleを通じて販売している場合、表示順位などのアルゴリズムが変わる可能性
消費者への影響
EU域内では今後、ブラウザや検索エンジンの選択肢が拡大
App Store以外からのアプリ取得が可能になり、より自由なデジタル体験が可能に
個人データの管理や透明性も向上し、安心してサービスを利用できる環境へ
今後の展望
DMAは2024年以降、さらに厳格な監視体制と評価基準を導入する方向です。また、DMAに基づく初の制裁事例がいつ出るのか、世界の注目が集まっています。
今後は日本を含む他地域でもDMAに類似した規制法が導入される可能性があり、国際的なルール形成におけるEUの影響力はますます強まると考えられます。
まとめ:デジタル市場法は時代の転換点
「デジタル市場法(DMA)」は、単なるEUの法律ではなく、世界のデジタル経済のあり方そのものを問い直す革新的な法制度です。企業の透明性、公平性、そして消費者保護を重視した枠組みは、GAFAの独占的支配に風穴をあける可能性を秘めています。
今後、日本企業や開発者もこの流れを無視できなくなることは間違いありません。デジタル市場法の動向に注目し、自社の戦略を見直すことが求められる時代が到来しています。