はじめに

海外展開を成功させ、海外事業部の売上を本格的にスケールさせるためには、単なる代理店や小規模なパートナーに頼るだけでは限界があります。

鍵を握るのは、現地で年商数億円規模の企業、営業チームを抱えた法人組織として、しっかりとした体制を持つローカルディストリビューターの獲得です。

このようなディストリビューターを通じて、リテーラー(小売業者)に商品が流通し、最終的に一般消費者の手に届くという商流が形成されます。

この商流を確実に築くためには、欧州地域で適用される「欧州規制」を正しく理解し、事前にクリアにしておくことが絶対条件です。実際、現地企業との商談の際には必ずと言っていいほど「欧州規制」への対応状況が問われます。準備不足であれば、その時点で信頼を失い、交渉が破綻するリスクもあります。

本記事では、海外展開を目指す企業が直面する欧州規制の種類やその対策、そして長期的に成功するための計画方法について詳しく解説します。

欧州規制の種類

欧州規制にはさまざまな種類があり、製品ジャンルや業界によって適用されるルールが異なります。以下は代表的な規制の一覧です。

1. CEマーキング
CEマーキングは、製品がEU(欧州連合)の安全・健康・環境保護などの要件を満たしていることを示す認証マークです。おもちゃ、医療機器、電気製品、建設資材など多くのカテゴリーで必須となっています。

2. REACH規則(化学物質の登録・評価・認可・制限)
REACH(Registration, Evaluation, Authorization and Restriction of Chemicals)は、EU域内で製造・販売されるすべての化学物質に関する規制です。日用品から工業製品にいたるまで幅広く対象となり、輸出企業には化学成分の情報開示や登録義務が課されます。

3. RoHS指令
RoHS(Restriction of Hazardous Substances)は、電気電子機器に含まれる特定有害物質の使用を制限する指令です。鉛、水銀、カドミウムなどの使用制限があり、CEマーキングと並んで重要視されています。

4. 食品関連規制(EC 178/2002など)
食品やサプリメントを欧州に輸出する場合には、食品安全法規、表示義務、トレーサビリティの確保など多くのルールに従う必要があります。オーガニック製品や健康食品はさらに細かい基準が設定されています。

5. GDPR(一般データ保護規則)
デジタル製品やサービス、ECサイト運営などを欧州で展開する場合、個人情報保護法であるGDPRへの対応は不可欠です。データの収集、保管、第三者提供に関する厳しいルールが定められています。

 

欧州規制の申請・登録・認証プロセス

製品を欧州市場で販売するには、上述のような規制への適合性を証明するために、以下のようなステップが必要になります。

対象規制の特定と要件整理
製品ごとに適用される欧州規制を洗い出し、必要な証明書・データを明確化します。

試験機関での検査・証明取得
第三者の公的試験機関(Notified Bodyなど)にて、必要に応じて製品検査を受け、証明書を取得します。

技術文書(Technical File)の作成
製品仕様、検査結果、リスク評価、使用マニュアルなどをまとめた技術文書を作成し、EU当局の求めに応じて提出できる体制を整えます。

表示・マーキングの準備
CEマークや原産国表示、使用上の注意など、パッケージや製品ラベルに必要な記載を行います。

欧州代理人(Authorized Representative)の選任
非EU企業は、現地に欧州代理人を置く必要があります。代理人は当局との連絡窓口となり、トラブル対応も担います。

 

欧州規制の緩和と更新サイクル

欧州規制は一度クリアすれば終わりというわけではありません。政治情勢、環境政策、技術革新などに応じて、規制内容は定期的に見直されます。特に近年は以下のような動きが活発です。

環境対策の強化(グリーンディール政策)
カーボンニュートラルを目指すEUの方針により、プラスチック製品の規制や、製品ライフサイクルの延長に関する要求が厳しくなっています。

デジタル製品への監視強化
AIやIoT製品に関して新しい規制案(AI法案など)が次々と出てきており、事業者は継続的な情報収集が必要です。

BREXIT後の英国独自ルール(UKCA)への対応
英国市場を含める場合、EU規制とは異なる独自マーク・規制対応も同時に求められます。

このような背景から、現地の法制度や規制動向を継続的にモニターし、必要に応じて再申請・再登録を行う体制が必要です。

欧州規制を怠るとどうなるか?

欧州規制を軽視した場合、企業はさまざまなリスクを負うことになります。

製品の輸入差し止め、通関拒否
 欧州の税関でのチェックに引っかかり、商品の輸入自体が拒否されるケースがあります。

ディストリビューターからの契約解除
 現地パートナーは法令順守を非常に重視しています。規制未対応は信用喪失につながり、取引解消の原因にもなります。

罰金・訴訟リスク
 GDPR違反などの場合は巨額の罰金、集団訴訟に発展することもあり、企業の存続に関わる重大な影響を及ぼします。

ブランドイメージの毀損
 一度規制違反が報道されると、消費者の信頼は大きく損なわれ、現地での再起は非常に困難になります。

 

欧州規制クリアのための計画方法

では、どうすれば自社製品を欧州市場に適切に投入できるのか?以下のプロセスを参考に、段階的に準備を進めましょう。

市場調査と競合分析
同カテゴリの欧州製品がどのような規制をクリアしているかをリサーチし、自社との差分を洗い出します。

社内チームの育成と外部パートナーの活用
欧州規制に精通した法務、品質管理、技術部門との連携を強化し、必要に応じて外部コンサルタントも導入します。

製品開発の段階から規制を考慮
商品開発の初期段階で欧州規制要件を組み込むことで、後の修正コストを最小限に抑えることが可能です。

認証スケジュールの策定と早期申請
商談や展示会の前に、すでに「規制クリア済み」であることを証明できれば、ビジネスのスピードは一気に加速します。

 

おわりに

欧州規制は一見すると複雑でハードルが高いように感じるかもしれません。しかし、正しい知識と段取りを持てば、確実にクリアできるものです。逆に言えば、この壁を乗り越えた企業にだけ、欧州市場という巨大で高付加価値な市場の扉が開かれます。

海外進出の成功には、「規制への対応」=「信頼の証」という意識を持ち、戦略的に取り組むことが重要です。計画的な準備を通じて、グローバルブランドとしての第一歩を踏み出しましょう。

欧州規制の課題、お悩みがあれば、お気軽にお問い合わせください。